街のイルミネーションが人を誘い、クリスマスの賑わいが年の瀬の慌ただしさに移ろう頃、
私にはいつも印象深く思い出される人がいます。
その年最後の仕事を終え、スタッフとも良いお年をと別れた後、一人残って片付けをしていました。
ふと人の気配がして振り返ると入口に男性が立っています。
こんな押し詰まって来訪の予約もないしと身構えたのですが、
なかなかのハンサムで身なりもきちんとしています。
固い表情でどこか遠慮がちでしたが、仕事は警察官と言ったのでつい安心し
「ああよかった。襲われたらどうしようと思った」
と軽口をたたいたところ、彼の表情がふっと緩み、ぽつりぽつりと話し始めてくれました。
でもその内容はとても重いものでした。
離婚を話し合っている、と言います。
キャッチボールの相手をした二人の息子も相手が引き取るだろう、と。
仕方ないと納得しているはずなのにやるせなさが募り、
自分でも感情を持て余してカウンセラーにも通っている、そう語る表情には翳りがありました。
何か心の拠り所は無いか、心通わせる人がいれば気持ちをリセットできるか、
そう思っているとひとしきり喋った後は少しすっきりしたのでしょう。
来春までには決着をつけたい、と初めて笑顔を見せて帰って行きました。
私はといえば、またね、と言うだけでしたが。
ところが年が明けて初出の日、彼が来たではありませんか。
春まで待つ必要はない、と結論付けることができたのでしょう。
表情も幾分明るく、一層若々しく素敵に見えました。
程なく見付けた女性は超セレブ。
見付けたというより見付けられたというべきでしょうか。
有名アパレルメーカーのデザイナーをしている彼女は仕事のできる女として
贅沢三昧を尽くし、いわゆるアラフォーになって
初めて行く末のパートナーを探し始めていました。
はっきりと外観重視を宣言していましたが、まさに彼は好みのタイプだったようです。
他人に尽くすことの喜びを知った彼女は、ブランドスーツの代わりにエプロンをつけ、
高級レストランに行く代わりにキッチンに立ち、自分中心の生活から彼優先の生活になりました。
それが彼女にとっての幸せ、やっと見つけた幸せの形だったのです。
あれから数年が経ちます。
年を重ねるごとに、彼が初めて入口に立っていた情景が鮮明になっていくから不思議です。
あの時手放した息子さん達、お父さんと呼んで慕ってくれる年齢を超えて
今や親父と呼んで頼ってくる年頃でしょう。
実は時々遊びに来るそうですよ。
来ては彼女の手づくりの料理を食べて帰るというのですから、
本当に縁一つで人の生き方、関わり合いは変わるものですね。
年の瀬風情を感じるこの季節、
今年もまた私は彼と二人でしんみりと話したあのひとときを思い出すのです。
マリッジ・コンサルタント 山名 友子