結婚相談所物語

お袋のプチ家出 前編

信念を持って生きる―これは俺のポリシー。


人の意見になど左右されない。


世間体に振り回されるなんてまっぴらだ。


とは言え、確固たる意思を貫くことは案外難しいものである。


それでもまあ俺は実践出来ている、と誇らしく思っている。


30歳を過ぎたあたりから周りが喧しい。


まだ身を固めないのか、彼女はどうした、やれ紹介してやろうか、だの。


つるんでいた仲間たちも妻帯者になった途端、結婚はいいぞなんてやにさがって言う。


放っておいてくれ。


俺は結婚なんてしない。


今の生活で大満足だ。


バリバリ仕事をして、休みにはお気に入りのバイクにまたがって自由気ままに出かける。


メガネにはちょっとうるさいぞ。


それでさりげなくおしゃれを楽しむのだから。


ところがお袋までが嫁を貰えと言い出した。


お前は長男だからちゃんと家庭を持ってくれ、と。


父親を亡くして女手一つで俺と弟を育ててくれたお袋の言葉はずしりと重い。


でも結婚しなくたってお袋のことはきちんと面倒みるつもりだ。


そんなことで意思を曲げるのは俺のポリシーに反する。


お袋といえども俺の意思をゆるがすことはできないのだ。


結婚相談所に登録だって?そんなこと誰がするか。


大体そんなので結婚なんかできるもんか。


しかし、参った。


ある日仕事から帰るとお袋がいない。


続く


関西学院大卒 会社員・33歳(男性)より