結婚相談所物語

お袋のプチ家出 後編

弟が度々戻ってくると思っていたら、何だかほんわかした女性を連れてきた。


本当に結婚するつもりらしい。


悔しいが弟にしては実にいい選択をしたもんだ、


と感心していたら、ちょっと兄ちゃん、


これから結納とか色々あるんだから


お父さんの代わりをしっかり務めてよ、とお袋が言う。


当り前だ。


俺は長男だ。


結婚しなくてもちゃんと父親の役目は果たせるさ。


それにしても結婚が決まってから式本番まで、実に色々としなければならないことが多い。


何かと父親代わりに借り出されていくうち、


自分が結婚するような錯覚に陥って、柄にもなく心が浮くような気分になってきた。


慎ましく嫁入りの日を待っている彼女の様子も愛らしい。


それに関東と関西を往復しながらこなしていく弟を見ていると、


嫁さんと家庭を守っていこうとする男の顔になって急に大人びたように思えてきた。


そいつが、兄貴も意地張らずに結婚しろよ、


それとも何だかんだ言いながら要するに一人っきりの生活しかできないのか。


と言うではないか。


むかついた。


見ていろよ。


次は俺が素晴らしい嫁もらってやる。


バリバリ働いて、二人でバイク旅行して、二人でおしゃれを決め込んでやる。


弟達の新婚旅行を見送ってすぐ、エムロードに登録したのは言うまでもない。


俺は信念を貫く。


これは決して人様の意見に惑わされたからではない。


俺の意思だ。


見ていろ。


あっという間に嫁を見つけるぞ―という訳で、今こうして婚約者と写真を撮っている。


実に気分がいい。


しかし一番喜んでいるのはどうもお袋のような気がする。


ああ、薄ぼんやりと思い出したが、事の発端はお袋のプチ家出だったんだ。


俺はこうと決めたら誰が何と言おうと意思は曲げない。


だがしかし、この信念の強さの源流はこのお袋か?


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関西学院大卒 会社員・33歳(男性)より