結婚相談所物語

恋のさじ加減

「断られてもいい。とことん付き合いたい―息子はしばらく考えてこう申しました。至極明瞭な口ぶりで、迷いはないようでございました」



お母様からのご報告をいただき私も決心しました。もうしばらく見守ろうかと。口数の少ない彼の言葉は余計なものが削ぎ落とされ、真実だけが響きます。この一言からも、たとえ駄目でもそれはそれで受け止めよう、そんな決意がにじみ出ているように思いました。



"ときめきがない" 前に彼女が断わってきた理由です。「実直でいい人だと思います。妹からもあんないい人振るの?と言われました。でも...」恋愛ごっこに憧れ、きらびやかなお付き合いを望んでいたのでしょう。しかし、研究職の彼は、女性の喜ぶような言葉も振舞い持ち合わせていなかったのです。とても残念な結果となってしまいました。



その後も彼女は"ときめき"を求めて出会いを重ねました。華のある彼女にお相手は事欠きません。しかしお付き合いは長続きせず、そのうち彼女の方が断わられるようになってきました。周りの友達も次々と決まっていきます。披露宴に列席する度焦りと空しさが募ったのでしょう。こんなことをしていてはいけない、恋愛と結婚とは心構えが違う、とようやく気付いた彼女は、彼との交際を復活させて欲しいと申し入れてきました。よくよく考えてのことだったでしょう。それでも私は躊躇しました。彼を再び悲しみの淵に立たせることだけはあってはならないからです。恋の駆け引きならずとも、ご縁のお世話にもタイミングや計らいはあるのです。



彼女の真意を糺すために2週間置き、それでもやっぱりもう一度お付き合いしたいという願いを受け入れて二人の交際が復活しました。滑り出しは順調でした。しかし、遠距離のお付き合いというハンディもあり、しばらくして平行線の様相をきたしてきました。交際復活に手を貸した私としては最悪のシナリオが頭をよぎります。彼をまた傷つけたくない...考え迷った挙句、彼のお母様に言いました。「早いうちに彼からのお断りとしましょうか?」そんな私の懸念を見事に払拭してくれたのが冒頭の彼の一言でした。



彼の答えは、自分自身の気持ちの確かめでもあったのでしょう。言葉の通り決して急がず彼女のペースに合わせ、それこそとことん、彼女に考える時間と機会を与えました。私も心配顔を押しとどめてひたすら見守るだけです。やがて彼の決意と真の包容力が彼女に伝わったことは言うまでもありません。さんざん行きつ戻りつした彼女でしたが、白無垢の花嫁となってまるで迷いのない実に可憐な笑顔で嫁いで行きました。



駆け引きと言えば遊び半分のように聞こえますが、恋愛に限らず結婚話でも、まとまる、まとまらないはほんのわずかな違いにしか過ぎないことが多いのです。どのカードをどう切るか、いつ出すか、それこそ駆け引きならぬ微妙なさじ加減でしょうか。さて余談ですが、彼女よりも先に彼の良さに気づいていた彼女の妹さん、その妹さんも会員として活動されていますが、お姉さんと同じように、前にお付き合いした人との交際の復活を申し入れてこられました。あらあら姉妹揃って...。さて今度はどうさせていただきましょうか?



マリッジ・コンサルタント 山名 友子