結婚相談所物語

やがてホロリ

自分のものとなった唯一の縁を抱いて退会される会員さんからは、実に様々な言葉をいただきます。 喜びの声、感謝の気持ち、ちょっぴり反省の弁、そして後進へのアドバイス。 会員さんの人となりがしのばれ、言葉一つ一つにあの人らしいなと思わせるものがあります。
そんな中に、くすりと笑わされ一瞬後にほろりとさせられた忘れられない言葉がありました。 あの人からこのように激励されるとは...クスリ。 ああ、あんなにも苦しんだのにこの明るさは...ホロリ。



彼はとても生真面目でした。
結婚を正面からとらえ、時には相手にも自分にも公明正大を貫きます。
いずれ知れることだから、知った上で結婚してもらいたい、と自分のことは包み隠さず過去に遡(さかのぼ)ってまでも相手に語り、相手にもそれなりの姿勢を求めます。 それが彼の流儀でした。
だからと言って、必要以上に相手を探る様なことはありません。 何もかも話してよと執拗に求めるわけでもなく、話していない何かがあるんじゃないかと勘ぐることもなく、ですからそういうことで話がこじれることは全くありませんでした。
ただ、彼が話したことを女性の方が変に用心し、まとまりかけた話が頓挫したとはありました。 もう10年も前に罹った病気のことを、昔こんなことがあったよと話したばかりに、大した病気でもないのにしかも完治しているというのに、女性の母親が大層に捉えて破談となったのです。 まったく気の毒としか言いようがありません。 けれども彼は病気について話したことを後悔しませんでした。 それが彼の生き方だからです。
それからもう一度、やっぱり成婚直前になって破談になったことがあります。
それは単に女性側の都合だったのですが、お世話をしている私たちとしては彼に申し訳ない気持ちで一杯でした。 それでも彼は愚痴ることなく、紳士でいてくれました。



そんな時、大学1年生だという女性が入会してきました。
医療関係の仕事をしているうちに本格的に資格を取ろうという気持ちになり、人より随分遅れての薬科大学入学です。 だけどこのまま卒業を待っていると婚期がかなり遅れてしまう...そう思って、資格を取る為に大学に入学したのと同じように、結婚する為に入会してきました。 これまで恋愛経験もなかったという彼女は、さすがに今更学ぼうとするだけのことはあって、とても素直で謙虚です。 私たちのアドバイスもよく聞いてくれました。
生真面目で、だけどどこかおおらか、そして着実な二人。 なんだかいい感じというのは私たちの勘でした。



二人が晴れて結ばれ、退会するにあたって寄せてくれた言葉があります。 それはとても丁寧な感想と私たちへの感謝の言葉でした。 こちらの方こそありがたくて、もったいない気持ちで一杯です。 その彼がくださった言葉、彼にとっては切実なる訴え、私たちにとっては最大級の励ましの言葉、それは・・・

「人の縁というのは難しくもあり、不思議なものですね。 色々心配をおかけしましたが、お陰様で可愛らしいパートナーを得ることができました。 たくさんのアドバイスをいただき、また励ましもいただきながら、ようやくここまで辿り着けたことを、大変有難く思っています。 縁結びは人助けです!!これからも頑張ってください!」と。



手づくりが故のお世話の厳しさを、日々痛感させられている未熟者の私たちにとって〝縁結びは人助けです〟とは、なんと有難いお言葉でしょう。
いえいえ、こちらこそ感謝の気持ちで一杯です。



マリッジ・コンサルタント 山名 友子