結婚相談所物語

背景を知る(2)

大学時代の友だちY子から


"ドクターと結婚することになった"と聞いた時はびっくり。


以前から結婚相談所に入ったとは聞いていたけれど、


まさか...。


なんだか心からおめでとうって祝福する気になれなくて、


ちょっぴり悔しい気持ちすらした。


だって薬学部の頃はいつも、


医者と結婚して専業主婦になろうね、


なんて冗談っぽく、


でも結構本気で話していたのに、


二人とも病院勤めの仕事でなかったから


"医者と結婚"のチャンスはないと思っていたもの。


それなのになんでY子が医者と...?


結婚相談所で婚活してたとは聞いていたけれど、


私は抵抗があった。


でもY子はそこでドクターをゲットしたわけ。


Y子から余裕たっぷりに一部始終を明かされた時は


一人おいてけぼりを喰った気分だった。


なんだ、そんなことならわたしだって。




正直言ってY子が決められたんだったら


わたしにだって決められる。


そう思って婚活することにした。


もうY子と顔を合わせることもないだろうし


時間かけずに決めたいから思いきってY子と同じ結婚相談所へ、


そしてとりあえずドクター希望。


自分のプロフィールにも、


結婚後はどちらかと言えば専業主婦希望、


と書きこんだ。


そして、ドクターも含め何人か紹介された。


断ったり断られたりした。




ある時、


ドクターもいいけどこの人も素敵よ、


と紹介されたのはパティシエだった。


え?パティシエ?医者じゃないの?


わたしできれば仕事続けたくないんだけど?




でもそのパティシエはカッコよかった。


長身でとてもハンサム。好みのタイプ。


それにね、とアドバイザーが耳打ちする。


あなた結婚したら仕事続けたくないと言ってるけど


それは生活のためにあくせくしたくないってことでしょ?


彼の家は資産家なの。


だからもうすでにおしゃれな自分のお店を持っているのよ。


週に3日だけの営業なんですって。


一緒にお店を手伝ってくれる人というのが


彼の方からの希望だけど、


夢のために働くのはいいんじゃない?


とにかくお会いしてみたら?


ちょっと堅物なところのある人だけど。


最後の堅物のところは気になるけどまあいい。


大学を出てどうしてもパティシエになりたかった彼。


親の大反対を押し切って進んだ堅物の彼。


代々続く家業は弟に譲ってまで選んだ仕事。




言われてみれば医者でなくても


実業家でもサラリーマンだっていい。


とにかく生計のために薬剤師を続けることが前提


という結婚が嫌だった。


他の業界についてはよくわからないし


医者なら間違いないから決めてかかっていただけ。


まあY子の手前ってこともなくはないかな。


なるほど、


結婚するにはこういう背景を知ることも大切ね。


紙切れ一枚のデータだけじゃ


分からないことも多いものね。




付き合ってみると堅物の意味がなんとなくわかった。


彼は真面目で融通がきかない、石頭ってことね。


でもまあコツさえ掴んでしまえば


筋は通っているしやりにくくはない。


ただやっぱりハードルは彼の母親だろう。


薬剤師の仕事はするな(これはありがたい)、


でも同居しろ、となかなかの強者のようだ。


果たして私はやっていけるのだろうか?


するとアドバイザーがまた囁いた。


結婚すると状況は変わるわよ。


とにかく息子に投資しようというのだから口も出るわよ。


でも上手くお母様の懐に入ることさえできれば


こんなに心強いことはないし、


同居といっても離れだし、


敷地が広いから顔を合わせることもないと思うわ。


なかなかこういう条件の人、いないわよ。


よーく考えてね。




そうか、わたし次第というわけか。


そう考えると面白くも思えてきたから不思議だ。


仕事柄医療の世界しか見てこなかったけど、


世の中にはいろんな世界があってそれぞれ頂点はあるもんだ。


誰と結婚したかより結婚してどんな生活していくかで考えると


選択肢はたくさんある。


それにY子も知らない、


知ることができない世界を経験できるという優越感もちょっとある。


母親対策も入念に準備してればなんとかなるか。


何せ背景はきっちり見えているのだし。




ちょっとお堅いパティシエさんには


しっかりわたしの好みを刷り込んで


美味しいスイーツを作ってもらって。


ちょっとこうるさいお母様には


彼が軌道にのるまで経済面のサポートをお任せして。


ドクター希望さえ捨てれば、もともと私のタイプだし。


背景を知るって大切ね。


マリッジ・コンサルタント 山名 友子