結婚相談所物語

縁の不思議

「・・・が転勤ですって」


「え?何?」


「転勤なのよ。しかも新潟って遠いわよねぇ」


「一体誰の話?」


「だからNさんよ!」


スタッフの間で話題になっているNさん、


長年の会員だ。


とにかく難しい男性である。


そもそもがそんなに若くもないスタートだったのに、


まあ細かいことこの上なし。


という訳であっという間に5年が過ぎようとしている。


おそらく仕事はよくできるのだろう。


真面目だし聡明だし、


それは年収も物語っている。


しかし、自分に厳しい分


相手に求めるものもなかなかだ。


もちろん態度に表すわけではない。


が、評価は本当に手厳しい。


なのでちっとも決まらない。


業を煮やすスタッフとも衝突しがちであった。


しかし考えようによっては優しいのかもしれない。


心にもないことを言って


気に入られようという素振りもなく、


思わせぶりで相手を下手に振り回すでもなく。


とは言え我々もいつまでも


手をこまぬいてばかりはおられない。


そこで、


これまでの経験を頼りに、


それこそ知恵を絞りに絞って"この人"


という女性を引き合わせた。


Nさんの新潟転勤はそんなプランが


動き始めた矢先のことであった。




これほどまでに厳しくて細かい人は、


いつも感覚を研ぎ澄ませているのだろうから


癒し系がいいだろう。


だけど緩いだけなら、


癒される前に緩さが耐えられないと


感じるかもしれない。


と色々算段の結果、


見かけは癒し系、


しかし内面は案外シビアな女性を


選んで紹介していたのだ。


彼女は情緒的で柔和な雰囲気を持っているのだが、


その実理想が高くて融通が利かない。


それはそれでギャップの妙でいいのだろうけど、


年齢がそこそこであるのがブレーキになって、


やっぱり決まらないでいた。


しかし、さすがにもう時間の猶予はない、


という意識は彼女にも芽生え始めていた。


だから彼女にとってもチャンスだろうと考えたのだ。


言うなれば、頑固だけど手を抜かずに


丁寧に世話をする優秀な職人に、


可憐だけど世話が難しくて


手間のかかる品種の花を当てがった、


そんな感じであった。


両者の相性が良ければ切っても切れない


間柄になるはずである。


男性の転勤は、このマッチングがうまくいくのかを


見定める序章でのハプニングだった。


さて思わぬ事情変更が果たして


吉と出るのか凶と出るのか。




「Nさん、帰って来るらしいわよ」


「Nさんって新潟に転勤していた方?」


「短かったのね」


「そうじゃなくて、彼女に会いによ。


新潟からわざわざ帰って来ているそうよ」


Nさんは毎週のように新潟から


彼女に会うために神戸に帰って来るようになった。


まるで一週間も手入れをしないと


この花はダメになってしまう、


と心配するように。


その熱意たるやこれまでの5年間で


ついぞ見たことがなかったが、


でも意外という印象はなかった。


彼は、はまれば的中する、


そういう予感はあった。


花の手入れは、ちょっと複雑なぐらいの方が


職人魂を揺さぶられていいのかもしれない。


世話をされる花にしても、


花の気位が高ければ高いほど、


手をかけられただけ


鮮やかに咲き誇るものなのだろう。


そうして見事に花開いて、


手間暇かかる煩わしさを


喜びに変えるマジックよろしく、


彼を完璧に癒してしまったのである。


結局は、Nさんは彼女に対しては


緑の指を持っていた、


と言えるかもしれない。




男女の感情の機微は、


こういった別の関係に置き換えて考えてみると


腑に落ちることもままあるものだ、


と今月の成婚退会者のリストに


一筋縄ではいかなかったお二人の名前が、


しかもカップルとして


一緒に載っているのを目にして


縁の不思議さにしみじみと感じ入った次第です。


マリッジ・コンサルタント 山名 友子