結婚相談所物語

震災の日(後編)

自宅待機を余儀なくされた翌々日の昼過ぎ、家の中の片付けをしていると、一人の男性が玄関に立っていました。


背中に大きなリュック、そして「無事でよかった」と大きな声。
彼でした。


彼女は一瞬、なぜ彼がそんな格好でこんな時間に、自分の家の玄関に立っているのかわかりませんでした。でも次の瞬間、なぜか緊張の糸が切れたように涙があふれ出たのです。


彼は連絡の取れない彼女を心配して、1日だけ休みをとってはるばる大阪からたずねてきてくれたのでした。


大阪から西は一番被害の大きかったところ。どこまで電車が走るのか、道はどこが繋がっているのか、そんなことは何も分からないのに、とにかく彼女の住む加古川を目指して西へ西へ。


リュックには水とおにぎりと缶詰を詰められるだけ詰めて。早朝に出発してなんと9時間もかかったそうです。


そして一言「無事でよかった」。明日は仕事があるのでどうしても今日中に大阪に戻らなければならないからと、たった30分で、また9時間かけて彼は帰っていきました。


帰りは大丈夫、君が無事だったし、背中も軽いから、とやっぱり飄々と笑いながら


一人でいれば気楽なこともあります。それでも天災、病気、仕事の浮き沈み、生きていれば色々とあります。苦しい時こそ、辛い時こそ、人のぬくもりや気持ちが身に染みますし、その人の真意がわかります。


気の利いた言葉はなくても、彼女は一番どん底の中で、彼の真意を理解したのでした。夫婦とは、思いやりの恩恵を授けたり受けたりする一番近い相手―もはや彼以上の相手は、彼女には考えられなくなりました。


あれから16年・・・お子さん達もそろそろ思春期を迎えておられることでしょう。

マリッジ・コンサルタント 山名 友子