結婚相談所物語

本物の結婚

夜中にふっと目が覚めて


人の気配がないのを確かめる。


ないと分かれば安心する。


だけどなんだか寂しくもある。


そんなこと、


いつ頃から思うようになったかしら。




これまでの人生の半分以上をこの人と過ごしてきたのに


ちっとも距離が埋まらない。


子どもも独立してこの先この人と


二人で過ごしていくことに意味はあるのかしら、


と思い始めたあの頃は、


夜中に目覚めたときに感じる人の気配が無性に嫌だった。


そしてお互いがそのように思っていたと分かった時、


初めて意見が一致したことに


皮肉を感じながらも別れる決心がついた。


それ以来、夜中の人の気配の無さは


むしろ小気味よく、心地よい。


だけど、


ずっとこのまま年を重ねていけば


一人でいる時間が一番多くなるんだと思い至った時、


ちょっとした驚きを感じた。


それからかしら。


夜中の人の気配の無さが


私に語りかけるようになったのは。


私はどうしたい?


もう遠慮しなければいけない人もいないのに、


だから自分のことだけ考えてもいいのに。


ねぇ、どうしたいの?


自分が考えなきゃ誰も


私のことなんか考えてくれないわよ、と。




結婚って、


言葉の響きからして晴れやかで華々しくて、


まるで扇の要に立って広がっていくような


イメージがあるけれど、


そして実際そういうものだろうけど、


私の若い頃の結婚はそういう意味では


まったく結婚ではなかった。


今度こそ、


本当の意味での結婚をしたい。


もう若くはないけれど、


気持ちが晴れやかに安らぐような、


これからの人生でも


広がっていけると思えるような、


そんな本当の本物の結婚を。




そう思えたということが既に神懸かっていたのよ、


と友人に話す度に笑われる。


だけど真実そう思う。


だって奮い立って結婚相談所に飛び込んで


初めておつきあいした男性と


たった二ヶ月で結婚を決めたのだから。


この絶妙のタイミングは


私一人の力とは思えない。


同い年の彼を紹介された時は、


還暦を迎えようかという男性でも


こんな人がいるのかと


ちょっと信じられなかった。


いつまでも恋人同士のような


結婚生活を送りたいという言葉の純粋さ、


収入は生活に支障がない程度という正直さ、


これらは本物だろうか、


と初めは疑ってしまった。


前の結婚生活では気持ちが通わなくて


17年でピリオドを打ったと話す彼の、


どこか世間から一歩入り込んだ


静寂な空間に住まう人のような雰囲気からは、


確かに競争に打ち勝つ要領の良さは感じられない。


だけど諦めたような停滞した雰囲気も


もっと感じられなかった。


誠実を絵に描いたような彼は


きっと優しすぎたのだ、


とわかるのにそう時間はかからなかった。


夜中に目覚めて彼の気配を感じたなら


きっと私は安心してまた深い眠りにつけるだろう。


彼とならもう一度扇の要に立って


広がっていくことを楽しめるだろう。


そう彼に告げると、


もう四年越しです、


あなたのような人を探していました、


と言ってくれた。




ウェディングドレスもケーキもない。


だけど心は喜びと希望で震えている。


年甲斐も無く?


いえいえ、


二人とも苦い思いをしているからこそ


本物の手応えがわかっている。


この本物の喜びを味わえる条件に


年齢は関係ないと心底そう思う。


マリッジ・コンサルタント 山名 友子